「Constellation〜星座〜」(第5話 前)
第5話 「8月・・・Confess (・・・を自白する)」(前)
防御をがっちりしておくと、それを解除する時は大変
でも、本当にいいの?
1 矢島探偵社
昼近くの社員スペース。榛野なな恵の「Papa told me」を読みながら幾男がいう。
「何か、面白いこと、ないかなぁ」
新聞を読んでいた柏崎が、向かいの席から応えた。
「お盆に向けて、海外へ行く人は例年と変わらない数になりそうだという経済界の
予想は?」
「ちっとも、面白くないでしょう、モチさん」
幾男がむくれる。
「不況、不況と言われているのに、おめでたいとは思わないかなあ? 幾男君」
「僕が行かないんじゃ、関係ないから、思いませーん」
「行けばいいじゃないの、幾男ちゃん」
報告書を打ち終えた由紀乃が茶々を入れる。
「先立つ物がありません。おねーさま、連れてって」
「親と同居してるんでしょ、そっちに頼むのが筋だわ」
「いえいえ、おねーさまの海外旅行のガイド兼荷物持ちに雇ってくださいよぉ」
「ダーリンの分の荷物と合わせて2人分、加えてお土産も全部持てる?」
「うう。ちょっと、つらいかも」
柏崎がため息をつく。
「目的地に着くまでがつらいんですよね。車で行くにしろ、電車にしろ。空港までの
アクセス時間だってありますし」
「あら、モチさん、旅は目的地につくまでの過程が楽しいものじゃない」
「わたしとワイフの実家に行く分には、過程も何もありませんよ」
「ああ、そういう話ね」
「兄嫁をくたびれさせてしまうし。いっそ、こっちに招待した方がいいかもしれません」
「それも一案だわね」
檜沢が割り込む。
「モチさん、それでもしも休日を変更する場合は早めに言ってくださいよ。調整が必要に
なるかもしれませんから」
頭を掻いて「はい」と応える柏崎。
由紀乃は、沈黙を守っている美咲に声をかける。
「それで、美咲の夏休みの予定は?」
「特に、ないの。ずっと家にいるかも」
うつむいて、栗色の表紙のバインダーをめくっていた美咲が応える。
「まあ、あなただったら、思い立ったその日に出かけられるものね」
片手を首の後ろに回し、ソバージュを少し持ち上げて由紀乃がいう。もう一方の手でオレ
ンジ表紙のバインダーを仰ぎ、風を送る。
「冷房、緩いんじゃない?」
「これくらいが健康にいいはずだが」
赤い表紙のバインダーを閉じて、檜沢。
「由紀乃、手が空いてるなら上に行ってもいいぞ。何かあったら、呼びに行く」
4階、5階のフィットネスクラブにはプールがある。同じビルのよしみで、割引特典付きの
法人会員になっている。
「やった。ありがとう、リーダー。美咲も行かない?」
「でも」
「別に領収書はたまってないだろ? 構わないぞ」
隣席で檜沢も言う。
「でも、檜沢さん」
「気晴らしに泳いで来い。不景気な顔して戻ってくるな。リーダー命令だ」
2 同時刻 隣町
7階建てのマンション前、軽食店の客用駐車場に篠原は白いマーク2を停めた。
黒いワンピースに白いエプロン。典型的メイドスタイルのウエイトレスが目の前を
横切り、店に入ろうとしている。篠原が車から降りるとウエイトレスは彼を見て、
誰だろうと考える素振りで首を傾げた。確か、透子って言ったっけ、と思いながら、
篠原は彼女に声をかけた。
「こんにちは、連休前以来ですね」
3 再び 軽食店「アレキサンドライト」
アスコットに匹敵する旨さだと思いながら、篠原はマスターの入れたコーヒーを
飲んでいた。ただし、調査の方は上手くない。
「村井さんのところの友明君に続いて、戸田(とだ)さんの息子さんもですか」
マスターは顔をしかめている。孫息子とウエイトレスも心配そうな顔で篠原の話を
聞いていた。
「わたしのゴルフ仲間の息子さんが、2人続けて行方不明ね。おだやかじゃあ、ないな」
「関連があるとは限りませんよ」
あわてて篠原が言う。
「なんといいましょうか、前回の村井さんの件で戸田さんのところにも私は行って
まして。ええ、お話を伺いにね。その時の名刺が元で、当社に依頼が来たわけです。
決して、関連付けているわけではありません」
「その2人、つきあいはなかったんですよね」
孫息子・・・匠と言ったはずだ・・・が口をはさむ。
「ありませんでした。友人同士だったのは、マスターの代の4人で、息子さんたちに
交流はありません。匠さんのお父さん、要(かなめ)さんもそうでしょう?」
匠はマスターに聞く。
「そうだった? おじいちゃん」
「この間も言ったけれど、その通りですよ、匠」
マスターは篠原に向き直る。
「ところで、失礼ながら、村井友明さんは見つかってないんですか」
「はい。力及ばず」
苦い物を噛みしめながら、篠原は応える。
「人ひとり、消えることができるのね、世の中って」
ウエイトレスの透子がため息をつく。
「自分から、失踪したのかな.。それとも」
考えながら、マスターは言う。
「マスター、何か心当たりでも?」
「いいえ。ただ、仕事で行き詰まったとは考えにくいんですよ。それだったら、わたしの
ところに相談に来てもいいのにと思って」
「いなくなった2人共、職種はこことは違っていますが」
「それでも父親の友人ということで、頼ってくれてもいいと思います。要のところには
来なくても、わたしのところには」
自分用のコーヒーを入れながら、マスターは言った。
「わたしたちには、何もお話できることはありません。篠原さんにお伝えするどころか、
こちらが教わりたいくらいです」
4 フィットネスクラブ 5階スイミングプール
駅前のショッピングセンターで新しい水着を買った由紀乃と美咲が、泳いでいる。
由紀乃はセパレート型のオレンジ色の水着に同じ色のパレオ、美咲が白地に
赤と紫のスイトピーが散らしてあるワンピース。空いている時間帯なのか、2人の
貸し切り状態になっている。
「美咲、ご機嫌いかがぁ?」
パレオは椅子にかけ、クロールでプールを2往復した由紀乃が、プールサイドに腰
かけていた美咲に声をかける。
「まあまあよ」
「社長が朝、聞く時は、無理しても元気だって言うくせに。つれないわね」
「ごめんね」
本当に申し訳なさそうに言う美咲。
「原因は、俊ちゃんの担当のお仕事?」
うなづく美咲。由紀乃は隣に座る。
「仕方ないじゃない、美咲のせいじゃないわよ」
「それはそうだけど」
「美咲、その顔じゃ部屋に帰れないわよ」
ますます困り顔になる美咲。由紀乃は優しい口調で言う。
「もっとも、私はまだ泳いでいたいのよね。ゆっくりしていきましょうよ」
「ありがとう」
美咲はプールに入る。仰向けに、ぷかりと浮かぶ。
「あら、らっこになったわ。貝殻、投げてあげましょうか」
由紀乃の言葉は、美咲の耳に入らない。天井を見上げて、声にならないひとりごと。
「屋上にプールを設置して、夜も開放してくれればいいのにね。星空を見ながら
泳げるのに」
5 矢島探偵社 社員スペース
男3人が、デスクワークをしている。檜沢が、ふと思い出したように言った。
「幾男の言う面白い範疇に入るかどうかわからないが、この間、ノエルさんが妙な
ものを見たと言っていた」
柏崎と幾男が、檜沢に注目する。
「ノエルさんですか。檜沢君、会ったんですか」
「檜沢リーダー、抜け駆けは駄目ですよお」
2人に言われ、檜沢は苦笑する。
「調査の途中で、通り道にデパートがあったから、顔を見に行ったんですよ」
と、柏崎に言ってから、
「抜け駆けも何も、会いに行くなとは誰も言ってないぞ、幾男」
てへっという顔になる幾男。柏崎が尋ねる。
「お元気そうでしたか?」
「生き生きしてましたよ。ここにいた時以上に」
「それで、面白い話しは?」
子どもがせがむように幾男が言う。ああ、とうなづく檜沢。
「何でも、夜、ツインタワービル東館の屋上から光の帯が出ていたとか」
眉を顰める柏崎と幾男。檜沢は続ける。
「私鉄駅のホームで、高架線になっていて、ツインタワービル東館が見えるところが
あるだろう。通過待ちでなんとなくビルを見ていたら、屋上からリボンみたいに光が
伸びていったそうだ。幅は、多分大人の身長並み。蛍光色みたいな緑色とクリーム色
の2本で、かすかに波を打っていて、横に、上に、限りなく、踊るようにね」
「ほお」
「エクトプラズマですかぁ?」
「遠くて、よくはわからなかったけれど、光の帯の先端に何かの意識があるような印象を
受けたそうだ。人間かどうかは怪しいけれど」
げっ、という顔をする聴衆2名。
「空飛ぶ異生命体?」
「宇宙人とか、もののけとか?」
「さあ。なんともわからないとか。そもそも、本当に意識体なのかどうかも謎だし」
首を振る檜沢。
「正体はともかく、きれいだったので眼福(がんぷく)になったと話していたよ」
うなる柏崎と幾男。
「怖くないものなら、わたしも見に行きたいですね」
「でも、僕やモチさんでも見る事ができるのかな」
「ほかの人には見えてなかったらしいとさ。あきらめた方がいいんじゃないか、幾男」
「どうして僕だけなんです。モチさんは?」
「モチさんだったら、もしかして、と考えてしまう」
にやにやと笑う檜沢。柏崎は苦笑いする。
「わたしは無理でしょう。むしろ、まだ檜沢君の方が有望かも」
「オレは、全然ですよ、そんなの。見えたのはノエルさんならではでしょう」
「はいはい、どうせ、僕は箸にも棒にもひっかかりませんよ」
幾男がむくれる。
「ああ、お腹すいた。お昼は、今日はアスコットに注文しよっと。下に降りるのが面倒
だあ」
「出前取るなら、オレの分も頼んでくれ」
「わたしも便乗させてもらいます」
「人を馬鹿にしたあとで、こき使うんですか?」
ぶちぶち言いながら、それでも幾男はアスコットに電話をかけた。壁のシルクスクリーン
を見ながら、檜沢は呟く。
「それでも一人だけ、ご同輩の心当たりがあるって、ノエルさんは言ってたな」
6 カラー
気分転換と食事を済ませ、女性2人が濡れた髪で戻ってからしばらくののち、篠原も
矢島探偵社に帰ってきた。軽食店アレキサンドライトでテイクアウトしたホールのアッ
プルパイと、激励にもらってしまったクッキーの包みを下げている。
「お前も段々、ここのカラーに染まってきたな」
お帰り、と握手しながら檜沢が笑う。
「気分転換のためですよ」
篠原が意地になって握り返す。
「おつかれさまでした」
美咲が冷たいおしぼりを差し出す。
「つけあがって癖になるから、自分でさせなさいよ」
由紀乃が忠告する。
「でも、暑い中、あちこち回ってきたんだもの」
「今日のおやつはアップルパイですか。わーい」
夏のさなかに「今年はじめての雪の日」を読んでいた幾男が言う。
「紅茶はわたしが入れましょう。二度取りでしたっけ、濁りなしのアイスティーに挑戦
します」
眼鏡を磨きながら柏崎が言った。
7 8分の1の行方
午後はメンバー全員がデスクワークをしていた。3時なろうという頃、柏崎は予告通り
アイスティーを入れた。美咲がキッチンでアップルパイにナイフを入れる。幾男が手伝
って皿に盛っている時、ドアベルが鳴り、人が入ってきた。
『矢島探偵社へようこそ。お話をお聞かせください。あなたのお役に立てるかもしれ
ません』
「やあ、コニー、別嬪さん。今日もお世話になりに来たよ」
人に指示を出すのに慣れていそうな、管理職風の雰囲気の声。美咲と幾男は顔を
見合わせた。
「美咲おねーさん、いらっしゃいましたね、例の方が」
「そうね。お得意さまだわ」
由紀乃がパーティションを回り、「いらっしゃいませ」と言っているのが聞こえる。矢島も
社長室から出て来た気配がしている。そして、応接室の扉が開閉される。美咲は、手元
のパイを見て言った。
「8つに切った後だわ」
「お客さまを蔑(ないがし)ろにはできませんよね、美咲おねーさん」
「お隣の分も、はずせないわ」
「オレはいらないから、応接室にお運びしてくれ」
ひょいとキッチンに顔を出した檜沢がそう言って、去っていった。美咲と幾男は再び顔を
見合わす。
「そうは言われても」
「はいそーですかって、できませんよね、おねーさん」
8枚の皿を前に、2人はうーんと唸った。
8 アップルパイ分割
幾男が隣の旅行代理店にパイと紅茶を持っていく。由紀乃が応接室へ2人分を運んだ。
6人分を、美咲が社員スペースに持っていく。
「オレの分はいいって言っただろうが」
パイと紅茶を机の上に置かれて、檜沢は言った。
「どこで帳尻を合わせた、美咲」
「大丈夫ですから」
檜沢の言葉をかわすように美咲が言う。彼女と幾男のパイが16分の1切れになっている。
2人の机の上の皿を見てやれやれと呟く檜沢。由紀乃が応接室から戻ってくる。
「どうしたの? リーダー。ご機嫌ななめの顔よ」
机の上を見渡し、由紀乃は納得顔になり、キッチンへ向かった。ナイフを持って戻ってくる。
自分の分を半分にして、半分を美咲の皿に乗せる。
「美しい友情だわよね」
自分で言って、楽しげに笑う。
「由紀乃ちゃん、お願い」
柏崎が由紀乃からナイフを回してもらう。同様にして、半分を幾男の皿の上に乗せる。
幾男がちょうど隣から戻ってくる。パイが2切れ乗っている自分の皿を見て、声を挙げた。
「わあ、季節はずれのサンタさんでも来たの?」
由紀乃が応える。
「眼鏡をした妻子「モチ」のサンタさんよ」
篠原が含み笑いをしながら、柏崎に言う。
「モチさん、それ、貸してください」
ナイフを受け取る。
「三分割は、きついかな」
由紀乃、柏崎、自分の計算である。
「パイがつぶれるぞ、篠原。2対1で切れ」
檜沢がうんざりした振りの声で言う。
「済んだら、こっちに回せよ」
「了解、檜沢さん」
くすくすと複数の方向で笑い声がする。
「あと5分早く、お客さまに来て欲しかったですね」
柏崎が笑う。
「お土産持参で来て欲しかったです」
これは、幾男。
「パイのみじん切りね。でも、味に変わりはないわ」
由紀乃がおかしそうに言う。
「ナイフを入れるたびに、甘さが増してるかも」
ふんわりと笑って、美咲。
「焼いた人間が呆れてるかもな」
と、檜沢。
「あそこのウエイトレスさんの手製だそうですけどね。喜んでくれてるかもしれませんよ」
言ってから、篠原は思い出して付け加えた。
「もらったクッキーも出しますか。これも割るなんて、言い出しっこなしですよ」
9 リクエスト
終業時刻を少し回った頃。篠原がキッチンで9人分の皿を洗っていた。ティーカップは
檜沢と柏崎が片づけたので、最後を引き受けたのが篠原になった。例によって時報の
ごとく、由紀乃の「アフター5はお忙しいのよっ」をキッチンで聞き、その他の者が帰る
気配も聞いていた。
「最後に帰ることになるのは、ひょっとしたら初めてじゃないか?」
間違いなく最後だ、と思う。今までにあったら、少しは記憶に残るようなことをしている
筈だ。
「篠原さん、お皿拭きましょうか」
美咲の声が社員スペースからキッチンに移動しながら聞こえてくる。断る前に、彼女は
布巾を手にしていた。6月からまた伸びた髪を後ろでひとつに結び、ガラス玉のような飾
りをつけている。球の中に一すじ、射したように色がついている。2つ並んで、透明なサク
ランボのよう。昼前に泳いだ髪は、さすがに乾いている。
「今日はごちそうさまでした」
「いえいえ、どういたしまして」
「領収書は? 篠原さん」
「もらってない。ポケットマネーだから」
「あら、いいんですか」
「いいよ。たまーには」
うなづいて皿を拭き始める美咲。ぼやくように言う篠原。
「なんて言うか、檜沢さんじゃないけど、ここのカラーに染まってきた気がする。聞き込み
に行った先で、ついケーキを買って来るなんてさ」
「いいじゃありませんか」
にっこり笑う美咲。皿が戸棚の中にしまわれていく。篠原の手伝いをしながら、美咲は
「風の歌」を口ずさむ。皿を洗い終わった篠原が聞き惚れるついでに見とれている。と、
彼の視線に気づいた美咲が赤くなった。
「その歌、好きなんだね。いや、好きなんですね」
「好きですよ。ええ、好き」
照れ笑いしてから、美咲は続けた。
「好きと言えば、篠原さん、お好きなケーキは何ですか」
「え?」
美咲は、真顔に変わっている。
「あまり、ケーキの種類は知らないんだけどな」
「知ってる範囲で構いません」
「それじゃ、シュークリーム。基本的過ぎるけど」
「シュークリームですね。わかりました」
「ひょっとして、それって」
期待していいんだろうか、と考える。
「このところ、作ってませんから。久しぶりに」
「それは、ありがとう。先に言ってしまう」
そう言っているうちに、美咲は皿をしまい終えた。
「だけどどうして俺の好みを聞くの」
「ほかのみんなの好みは、もう知ってますから」
「それはそうだ」
苦笑する篠原。
「それに」
「それに?」
美咲の顔が曇る。
「篠原さん、このところ、行方不明の方を探すのに、苦労されてるみたいだし」
篠原も沈んだ顔になる。
「そうだね」
沈黙が降りる。
「黒星、2つ目を出しそうだ。ここの恥じゃないのかな」
「そんな、がんばってくださいよ。見つけてください」
すがるように言う美咲。
「できるだけのことは、するよ。だけど、どうにも形勢が悪くて」
「ごめんなさい」
「美咲さんのせいじゃないでしょ?」
「でも、ごめんなさい」
篠原は首を傾げながら美咲を促し、社員スペースに移動する。檜沢が部屋の中を
思案顔で見回していた。
「おつかれさま。随分ゆっくり、皿を洗ってたんだな」
「焦って割りたくはありませんから。美咲さんのコンサートもあったし」
檜沢はゆとりを持って笑う。
「ふうん。「風の歌」辺りだろう」
「ご名答です。なぜ、わかるんです」
「お前よりも、美咲とのつきあいは長い」
篠原たちの会話を聞いて赤くなりながら、美咲がバッグを取る。檜沢に振り返る。
「残ってるなんて、どうされたんですか」
「社内に監視カメラをつけようかと考えていた」
驚いて檜沢を見る、篠原と美咲。
「うちにちょっかい出そうとする同業者がいるだろ? 夜間、休日に忍び込まれた時の
用意でもしておこうかと思ってな。しかし、犯人がわかってもこっちのノウハウを盗ま
れた後じゃ意味はないし、都合で休みの時にメンバーが来る場合もあるだろ。それを
写すような真似はしたくないんだよな」
腕組みをして考え込む。
「いっそのこと、犬でも飼うか。だが、ここって、動物を飼えたか? コニー程度はともかく」
10 同夜 篠原のアパート
檜沢、美咲と共に会社を出て家に帰った篠原が、電話に出ている。
「はい、篠原です。特に変わりはありません。シュークリームには期待しますが。いえ、
こっちのことです。ところで、忠告しておきますが、忍び込むのはやめた方がいいですよ」
第5話(前) 終わり
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